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春の卒業式シーズンになると、全国各地の大学・専門学校で袴姿の女性が華やかに立ち並びます。今では卒業式の定番スタイルとして定着している袴ですが、「なぜ卒業式に袴を着るのか」という由来を知っている方は意外と少ないかもしれません。
袴の歴史をひもとくと、その答えは明治時代の女子教育の発展と、学問に生きた女学生たちの姿に行き着きます。袴は単なる伝統衣装ではなく、女性の知性・自立・誇りを体現してきた「文化的シンボル」なのです。
・袴の起源と奈良時代以前にさかのぼる歴史的背景
・明治時代に女学生の制服として袴が生まれた経緯
・卒業式で袴が定番となった大正時代以降の文化的変遷
・袴の色(濃紫・深緑など)に込められた意味と美意識
・現代の袴レンタル・購入の選び方と所作の基本
1. 袴とは?|その種類と基本的な特徴
袴(はかま)とは、着物の上から腰に巻きつけて着用する和装の下衣です。股が分かれた「馬乗り袴(うまのりばかま)」と、股の分かれていない「行灯袴(あんどんばかま)」の大きく2種類があり、現代の卒業式で着用されるのは主に行灯袴です。スカート状の筒型で着脱しやすく、動きやすいことが特徴です。
袴には、着用者の性別・身分・場面によって様々な形式が存在します。現代では女性が着物と組み合わせる「女袴(おんなばかま)」スタイルが広く知られていますが、神職・武道・能楽・弓道など、男性の正装や武道着としても現在も用いられています。
| 種類 | 形状の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 馬乗り袴 | 股が分かれた二股構造。乗馬・武道に適した形 | 武道(剣道・弓道)・男性の礼装・神職 |
| 行灯袴 | スカート状の筒型。股の分かれがなく着脱しやすい | 女性の礼装・卒業式・女性神職 |
| 仕舞袴 | 能楽の仕舞に用いる格式高い袴 | 能楽・伝統芸能 |
2. 袴の由来と歴史|奈良時代から現代の卒業式まで
奈良時代以前の起源|礼服としての誕生
袴の起源は古く、奈良時代(710〜794年)以前にまでさかのぼるといわれています。この時代、袴は男女ともに身につける正装であり、身分や役職を示す衣服としての性格を持っていました。宮廷では貴族や官人が袴を着用し、その形状・文様・色彩によって身分の差が明確に区別されていました。
702年(大宝2年)に制定された「大宝律令」には、官人の服制(礼服の規定)が明文化されており、袴もその一部として定められていたとされています。当時の袴は「裾を覆って身を守る」機能を持ちながらも、労働着というよりは礼服・儀式服として発展していきました。この「礼の衣服」としての性格が、のちの卒業式という儀式の場にも引き継がれることになります。
平安〜江戸時代|宮廷から武家・庶民へ
平安時代(794〜1185年)の宮廷では、十二単(じゅうにひとえ)の下に緋色の袴を着用する女房装束が成立しました。現在も宮中行事や神社の女性神職が着用する緋袴(ひばかま)は、この流れを受け継ぐものです。
武家社会が台頭した鎌倉時代(1185〜1333年)以降は、武士の礼装として袴が定着。江戸時代(1603〜1868年)には武士の日常着として広く用いられるとともに、儒学者・能楽師などの知識人・芸能者も袴を着用するようになりました。こうして袴は「知識と礼節を備えた者の衣」という文化的イメージを育んでいきます。
明治時代|女学生の制服としての誕生
現在の「袴=卒業式」というイメージは、明治時代(1868〜1912年)の女子教育の発展とともに生まれました。近代国家への移行に伴い、女性にも教育の機会が広がります。その象徴となったのが東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学。1875年創立)をはじめとする女学校の生徒たちでした。
当時の女性の日常着は、裾の長い着物が中心でした。しかしこれでは授業・体育・実験など幅広い学校活動には不向きでした。そこで採用されたのが、着物に袴を合わせるスタイルです。袴を着用することで裾をすっきりとまとめ、動きやすさと品格を両立しました。
この実用性と美しさを兼ね備えたスタイルはやがて全国の女学校に広まり、「知識を学ぶ女性のための合理的な服装」として社会的に認知されていきました。
大正〜昭和時代|卒業式の定番へ
大正時代(1912〜1926年)に入ると、女子教育が社会的に認められ、学校を巣立つ女性の袴姿が「知性と美の体現」として文化的に確立されます。卒業式という節目に袴を着るという慣習は、この時代に定着したと考えられています。
昭和中期には洋装化の波により一時的に袴姿の卒業生が減少しましたが、1990年代以降に再び見直され、現代の「卒業式=袴」というスタイルへと復活・定着しました。
3. 袴に込められた意味と精神性
卒業式に袴を着る4つの象徴的意味
袴が卒業式の装束として選ばれ続けてきた背景には、以下の4つの象徴的な意味があるといわれています。
| 象徴 | 意味・背景 |
|---|---|
| 知性の象徴 | 明治期の女学生が学問とともに身につけた衣服。「学ぶ者の装い」としての文化的記憶 |
| 自立の象徴 | 社会進出する女性の決意の証。保守的な時代に新しい女性像を体現したスタイル |
| 美の象徴 | 気品・誠実・清楚を表す日本的美意識。色彩・文様に込められた願いと精神性 |
| 門出の象徴 | 学び舎を巣立つ儀式にふさわしい礼装。過去の努力を敬い未来へ踏み出す衣 |
袴の色に込められた意味
卒業式の袴に多く選ばれる色には、それぞれ日本の伝統的な色彩感覚に基づく意味が込められているとされています。ただし、色の意味は時代・地域・文化によって異なる場合もあります。
| 色 | 伝統的なイメージ | 卒業式での位置づけ |
|---|---|---|
| 濃紫(こきむらさき) | 高貴・品格・知性。平安時代から最も格式高い色とされてきた | 格調ある門出の象徴として長く愛用されてきた定番色 |
| 深緑(ふかみどり) | 誠実・落ち着き・成長。自然の生命力と安定感を表す | 知的で堅実なイメージとして女学生に好まれた伝統色 |
| 海老茶(えびちゃ) | 明治期の女学生スタイルを象徴する色。当時の女学生が好んだ赤褐色 | 「海老茶式部」とも呼ばれた明治女学生文化の象徴的な色 |
| 赤・朱(あか・しゅ) | 生命力・情熱・喜び。神社の緋袴にも通じる祝いの色 | 華やかで活気ある門出を印象づける人気色 |
4. 現代の暮らしへの取り入れ方|袴を着る・選ぶ・深く知る
袴レンタルの選び方
現代の卒業式では、袴のレンタルが広く利用されています。着物と袴のセット・小物一式(半幅帯・重ね衿・巾着・草履またはブーツ)がそろうプランが一般的です。予約は式の半年〜1年前から埋まり始めることが多いため、早めの確認が推奨されます。
袴の所作と着こなしの基本
袴を美しく着こなすには、立ち居振る舞いへの意識が欠かせません。「礼を重んじる衣服」としての袴の歴史を踏まえれば、所作の美しさもまた装いの一部です。着付けと所作の基本を解説した書籍を事前に読んでおくことで、当日の自信につながります。
現代の袴デザイン|伝統とモダンの融合
現代の卒業式では、古典的な草花文様に加え、モダンなデザインや洋風テイストを取り入れた袴も広く見られます。グラデーション染め・幾何学文様・刺繍アクセントなど、個性を表現できる選択肢が増えました。「和の中に自由をまとう」スタイルとして、伝統と革新が調和した現代の袴文化が育まれています。
| スタイル | 特徴 | 購入・レンタル |
|---|---|---|
| 古典柄袴 | 梅・桜・菊・松竹梅などの伝統的な草花文様。格式と品格を重視する選択 | |
| モダン袴 | グラデーション・幾何学柄・洋花モチーフ。個性を表現したい方に人気 | |
| 袴小物・アクセサリー | 重ね衿・半幅帯・巾着・髪飾りなど。コーディネート全体の印象を左右する |
5. よくある質問(FAQ)
Q1:なぜ卒業式に袴を着るようになったのですか?
A1:明治時代に東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)をはじめとする女学校で、着物に袴を合わせるスタイルが学校生活に適した制服として広まったことが起源とされています。動きやすさと品格を兼ね備えたこのスタイルが「学問を修めた女性の装い」として定着し、大正時代以降に卒業式の慣習として広がったといわれています。
Q2:袴と着物の違いは何ですか?
A2:着物は和装全般を指す総称で、袴は着物の上から腰に巻いて着用する下衣です。卒業式では振袖や小振袖(二尺袖)などの着物の上に袴を合わせるスタイルが一般的です。着物だけで着用する場合とは異なり、袴を合わせることで裾がまとまり、動きやすくなります。
Q3:袴はいつ頃予約すればよいですか?
A3:卒業式が3月の場合、前年の春〜夏(4〜8月頃)から予約が始まるレンタル店が多く、人気の色柄は早期に埋まる傾向があります。遅くとも式の半年前までに確認されることをおすすめします。大学生協や学内の提携店を利用する場合は、大学からのご案内を確認してください。
Q4:袴にはブーツと草履どちらが合いますか?
A4:どちらも卒業式の袴スタイルとして一般的に用いられています。草履は古典的・格式のある印象に、ブーツはモダンで動きやすい印象になります。明治・大正時代の女学生がブーツを合わせたスタイルが現代に受け継がれており、ブーツも「袴本来のスタイル」のひとつとして認識されています。
Q5:男性が袴を着る場合はどのような形式ですか?
A5:男性の袴は、紋付羽織袴(もんつきはおりはかま)が正式な礼装とされています。剣道・弓道・合気道などの武道着として着用される袴(主に馬乗り袴)も男性に広く用いられています。また、神職・能楽師など伝統芸能・宗教の場でも男性の正装として着用されています。
6. まとめ|袴に宿る”知と美の調和”
袴の歴史をたどると、奈良時代の礼服から平安の宮廷装束、武家の礼装、そして明治の女学生文化へと、時代ごとに異なる意味を纏いながら現代へと受け継がれてきた衣装であることがわかります。
卒業式に袴を着るという行為は、単なる「伝統の踏襲」ではありません。学問・自立・誠実さという価値観を体現し、学び舎を巣立つ節目にふさわしい装いとして、世代を超えて選ばれ続けてきた意味があります。袴を身にまとう瞬間、それは自分の過去の努力を敬い、未来へと一歩を踏み出す、日本ならではの美しい儀式のひとときです。
本記事の情報は執筆時点のものです。袴の様式・レンタル費用・予約スケジュールは店舗・地域・年度によって異なります。正確な情報は各レンタル店・着付け教室・大学窓口にてご確認ください。袴の色・文様の意味については地域・時代によって異なる解釈がある場合があります。
【参考情報源】
・お茶の水女子大学公式サイト https://www.ocha.ac.jp/
・国立歴史民俗博物館「服飾文化資料」https://www.rekihaku.ac.jp/
・文化庁「生活文化調査研究事業報告書(服飾)」https://www.bunka.go.jp/
・国立国会図書館デジタルコレクション(明治期女子教育関連資料)https://dl.ndl.go.jp/







