広島湾に浮かぶ、朱塗りの大鳥居と社殿。そのあまりにも有名な景色の背後には、常にどっしりと構える緑豊かな山があります。標高535メートル、宮島の最高峰「弥山(みせん)」です。
多くの観光客が社殿を参拝して満足してしまいますが、実は弥山こそが厳島神社信仰の「根源」であり、島全体を神とする日本人のアニミズム(万物への精霊信仰)の象徴でもあります。なぜ、人工的な大鳥居は海の中で倒れずに立っていられるのか。そして、なぜ山と海がこれほどまでに完璧な調和を見せるのか。
本記事では、空海(弘法大師)ゆかりの伝説から、大鳥居の驚異の物理学まで、宮島が放つ聖なるエネルギーの正体に迫ります。
1. 信仰の源:空海が開いた聖域「弥山」の神秘
厳島神社の「御神体」である弥山には、1200年以上もの間、人々の祈りが捧げられてきました。ここには、現代の私たちをも惹きつけてやまない不思議な伝説が息づいています。
「消えずの火」と巨石のパワー
山頂付近にある霊火堂には、弘法大師・空海が修行の際に焚いた火が今も燃え続けているとされる「消えずの火」があります。この火は広島平和記念公園の「平和の灯」の元火の一つにもなっています。また、山頂付近に点在する巨大な岩々は、古来より神が降臨する場所(磐座:いわくら)として崇められてきました。
2. 驚異の物理学:なぜ大鳥居は自重だけで立てるのか?
干潮時に大鳥居の足元へ行くと、その巨大さに圧倒されます。しかし、最も驚くべき事実は、この巨大な門が**「海底に深く埋まっているわけではない」**ということです。
重力とバランスの「知恵」
大鳥居は、実は鳥居自体の「重さ」だけで立っています。屋根の部分(島木・笠木)は箱状の構造になっており、その中には約7トン分もの**「拳大の石」**が詰め込まれています。この上部の重みが、荒波や強風に耐えるための強力な重石となっているのです。さらに、6本の柱が絶妙な角度で支え合うことで、物理学的に完璧なバランスを保っています。
3. 借景(しゃっけい)の極致:自然と人工の共生
厳島神社の社殿は、どこから眺めても弥山の稜線と美しく重なります。これは、背景の自然を庭の一部として取り込む日本庭園の技法「借景」を、島という壮大なスケールで実現したものです。
| 要素 | 精神的な意味 | 風景への役割 |
|---|---|---|
| 弥山(山) | 神の住処、不動の精神 | 社殿の荘厳さを引き立てる「額縁」の背景。 |
| 大鳥居(門) | 聖域と俗界の境界線 | 水平線に対する垂直のアクセント。 |
| 瀬戸内海(海) | 浄化、流動する命 | 社殿を「浄土」へと変える鏡のような水面。 |
【Q&A】弥山と大鳥居をより深く知るために
Q:弥山にはどうやって登るのがおすすめですか?A:体力に合わせて、ロープウェイを利用するのが一般的ですが、紅葉谷コースなどの登山道を歩くのも人気です。2026年現在はインバウンドの増加で混雑するため、朝一番のロープウェイを予約するのがスマートな選択です。
Q:大鳥居の石は、干潮時に見ることができますか?A:屋根の中に詰められているため直接見ることはできませんが、鳥居の根元にある「木杭」の打ち込み方などに、職人の緻密な計算の跡を見ることができます。
Q:弥山山頂の展望台は夜も行けますか?A:ロープウェイの運行時間外は、街灯のない登山道を歩くことになるため、夜間の個人登山は非常に危険です。夕暮れ時、ロープウェイの最終便に遅れないよう注意しましょう。
まとめ:山を見上げ、海を敬う。日本人の心の原点
厳島神社が「美しい」と感じるのは、その造形だけでなく、そこにある「山・海・人」の祈りが三位一体となっているからかもしれません。大鳥居が重力に抗わず、自らの重みでしっかりと地に足をつける姿は、私たちに「あるがままの自分」で立つことの強さを教えてくれているようです。
2026年、宮島を訪れる際は、ぜひ社殿を抜けて弥山へと視線を向けてみてください。1200年前から変わらぬ山の息遣いと、波に洗われ続ける大鳥居の静かな佇まい。その完璧な調和の中に、日本人が育んできたアニミズムの真髄を見つけることができるはずです。









