立冬に感じる「季節の味わい」
立冬(りっとう)は、暦の上では、この日を境に季節は冬へと向かう日。風の冷たさや日暮れの早さに、季節の移ろいを感じる頃です。この時期、日本では古くから食やお茶を通して「冬を迎える心の準備」をしてきました。
その代表が、和菓子と茶の湯。自然の美を映し取った和菓子と、静寂の中で心を整える茶道は、まさに立冬にふさわしい日本文化の象徴といえるでしょう。

立冬に味わいたい和菓子とは?
季節を感じ、目と舌で愉しむ――和菓子は、日本人の感性が息づく芸術品です。立冬の頃には、冬の訪れをテーマにした上生菓子(じょうなまがし)が登場します。
たとえば、初雪を表現した「雪平(せっぺい)」や、冬の木々を模した「寒椿」、霜の降りた庭を映した「霜夜(しもよ)」など。菓子職人たちは、素材の色や形、器との調和を通じて、冬の静けさを表現してきました。
また、立冬には「小豆」を使った菓子も人気です。小豆は古来より厄除けや邪気払いの象徴とされており、寒い季節に体を温める効果もあります。温かいお汁粉やぜんざいは、まさに立冬にぴったりの味覚。
甘味のやさしさが、冷えた体と心をほぐしてくれます。
四季の風情を織り込んだ和菓子
目を楽しませるだけではない。和菓子には、五感で感じる魅力が詰まっています。そこには、季節をひとつの命として感じ取り、それを菓子で表す日本人の繊細な感性があります。
たとえば、冬の花である椿を模した練り切りには、「寒さの中にも咲く凛とした美しさ」を表現する意味があります。
また、淡い色合いの雪餅(ゆきもち)は、冬の静寂や透明感を感じさせ、食べる人に季節の情緒を届けます。
和菓子の形や彩りには、自然を敬い、寄り添ってきた日本人の心がそっと込められています。
茶の湯に見る「冬のもてなし」
茶道の世界でも、立冬は特別な節目です。茶人たちはこの時期、「炉開き(ろびらき)」と呼ばれる行事を行い、夏の風炉(ふろ)から冬の炉(ろ)へと切り替えます。
「茶人の正月」と呼ばれる炉開きは、季節の変わり目に喜びと感謝を込めて茶を振る舞う、茶道の伝統行事です。
炭を整え、湯を沸かし、茶室には掛け軸や花を冬仕様にしつらえ、静けさの中に温もりを感じさせる演出を行います。
このときに出される主菓子は、季節の到来を象徴する和菓子。たとえば「寒牡丹」や「山茶花(さざんか)」を模した菓子が多く使われます。
茶の湯の一服とともにいただく菓子は、味わいだけでなく、季節を共有する“心の交流”を生み出します。

立冬の和菓子と茶の湯を楽しむ現代の工夫
現代では、和菓子店やカフェでも季節の上生菓子や抹茶セットを気軽に楽しめるようになりました。
たとえば、京都や金沢の老舗では「立冬限定」の和菓子が販売され、SNSでは「#立冬和菓子」「#季節の抹茶」といった投稿が人気です。
家庭でも、抹茶を点てて季節の和菓子を合わせるだけで、手軽に“おうち茶会”が楽しめます。
器を少し意識して選び、静かな音楽を流すだけでも、冬を迎えるしつらえになります。
立冬におすすめの和菓子5選

- ●雪平(せっぺい):柔らかな求肥で餡を包んだ上生菓子。初雪を思わせる淡い白さが魅力。
- ●寒椿:冬の代表花・椿をかたどった練り切り。濃紅と白のコントラストが美しい。
- ●柚子まんじゅう:立冬に旬を迎える柚子の香りが、寒さの中に爽やかさを添える。
- ●お汁粉:温かい小豆の優しい甘さが、冬支度の体をほっとさせる定番。
- ●雪餅(ゆきもち):粉雪のような口溶けで、冬の静けさを感じさせる上品な逸品。
まとめ:甘味と一服で「冬を迎える心」を整える
立冬の和菓子や茶の湯は、単なる味や儀式ではなく、「季節と心を結ぶ時間」です。
忙しい現代でも、和菓子と抹茶を用意して静かなひとときを過ごすだけで、季節の変化に寄り添う感覚が蘇ります。
冬の始まりの日に、温かいお茶と甘味を通して“心の冬支度”をしてみてはいかがでしょうか。
それは、古来より受け継がれてきた日本人の「季節を味わう心」を今に伝える、ささやかな贅沢なのです。