出雲大社で行われる「神在祭」とは?
出雲大社(いずもたいしゃ)は、島根県出雲市に鎮座する日本を代表する古社です。
この時期、日本中の神々が一か所に集まると伝えられており、出雲地方では旧暦10月は「神在月(かみありづき)」の名で知られています。
古事記に記された出雲の神話に起源を持つ「神在祭(かみありさい)」は、神々を迎えて感謝を捧げ、人々の「ご縁」を結ぶ神聖な祭りとして、今日まで大切に伝えられています。
旧暦の10月10日に行われる「神迎神事(かみむかえしんじ)」は神在祭の開始を告げるものです。
夜の海を渡って集まる全国の神々を迎える神聖な儀式が、出雲大社の西側に広がる稲佐の浜で行われます。
日が沈むとともにたいまつの火が灯され、神職や地元の人々が「ようこそおいでくださいました」と祈りを込めて神々をお迎えします。
白波の向こうに神々の姿を思い描き、太鼓の音とともに海と空が一体になるような神秘的な光景は、まさに“神話の世界”そのものです。
神々は稲佐の浜から出雲大社へと進み、「神楽殿」にお入りになります。
その後、出雲の地では約一週間にわたって神々の滞在が続くとされます。

神議(かみはかり)――神々の会議の意味
神在祭の期間中、出雲では「神議(かみはかり)」と呼ばれる神々の話し合いが行われると伝えられています。
この会議では、翌年の人々の縁(えにし)――つまり、人と人、物と物、国と国とのつながりを決めるとされています。
神々が語り合い、縁を定めるという考え方は、日本人が古くから持っていた「人は自然や神とのつながりの中で生きる」という世界観の象徴でもあります。
出雲大社の近くに位置する上の宮は「かみのみや」と読み、神々の会議の場所として知られ、その由来が今も語り継がれています。
神在祭期間中の出雲の風景
神在祭の時期、出雲の町は神聖な空気に包まれます。
出雲大社の参道には白いのぼり旗が並び、「全国の神々が滞在中」と書かれた掲示が掲げられます。
夜には灯籠が点り、静けさの中に凛とした雰囲気が漂います。
地元の人々は「神様が本当に来ている」と信じ、穏やかな緊張感と感謝の気持ちを持って日々を過ごします。
この時期は、参拝する人々が神々と心を通わせるように手を合わせる神聖な時間です。

出雲大社と大国主大神の役割
出雲大社の主祭神は「大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)」です。
国造りの神として知られるほか、縁結びの神としても広く信仰されています。
神在祭で神々が出雲に集うのは、大国主大神が“ご縁を司る中心的存在”だからと伝えられています。
彼は「見えない糸で人と人を結ぶ神」として、多くの人々の祈りを受け止めています。
このため、神在祭の時期には全国から縁結びを願う参拝者が訪れ、出雲はまさに「ご縁の聖地」と化します。
万九千神社と神々の見送り
神在祭の終盤には、万九千神社(まんくせんじんじゃ)において神々が出雲を発ち各地へ戻るのを送り出す神事、「神等去出(からさで)祭(さい)」が行われます。
神々の旅立ちを感謝と祈りで見送るこの儀式もまた、出雲の人々の信仰心を象徴する美しい風習です。
神在祭を体感できる現代の出雲
近年では、神在祭の時期に合わせて特別なライトアップや観光イベントも開催されます。
出雲大社周辺では「神在月グルメ」や「ご縁マルシェ」など、伝統と現代が融合した催しが人気です。
ただし、神在祭そのものは今も厳かな雰囲気を保ち、観光とは一線を画しています。
参拝時は静かに手を合わせ、神々を敬う気持ちを忘れないことが大切です。

まとめ:神々と人がつながる「ご縁の祭り」
神在祭は、神々を迎え、感謝を捧げる“神と人をつなぐ祭り”。
その背景には、出雲が古代から「神話と現実を結ぶ場所」とされてきた歴史があります。
夜の稲佐の浜に立ち、波音に耳を傾けてみれば、遠くから訪れる神々の気配を感じるかもしれません。
出雲の神在祭は、現代に生きる私たちに「目に見えないつながりの尊さ」を教えてくれる、日本文化の宝です。


